EYE KNOW

福岡在住B-BOYの音楽・映画・スポーツに関心を寄せて過ごす日々の観察記録

2016年 チェックすべきHIPHOP ALBUM 10選(国外編)

はじめに。

とにかく話題が多かった2016年も残すところ2週間ほど。既にPitchforkやSPINなど、USの音楽メディアはそれぞれ一年の総括を発表している。

 

B-BOYであれば"マイクの本数"で評価を行うSOURCEマガジンを愛読したことのある人も多いと思うが、ご存じない方のために説明しておくと、USの音楽シーンにおいてはアーティストが発表した作品の批評を行うメディアが存在しており、それぞれが独自の形式で批評を行いそれなりの影響力を持つ。日本で音楽作品の批評を行う影響力のあるコンテンツを筆者は知らないが音楽以外に目を向けると、例えばキネマ旬報の映画批評やファミ通クロスレビューゲーム批評など批評コンテンツは存在している。

 

そんなUS音楽作品批評のプロである各メディアの記者が本年リリースされた音楽作品をどう評価したのかを知りたいのであれば下記リンクをチェックしてほしい。

 

(※ USサイトのため全て英字だが、英語がからっきしの筆者でもランキングは理解可能なのでご安心を。)

 

SPIN誌の年間優秀アルバムベスト50↓

www.spin.com

 

Pitchforkの年間優秀アルバムベスト50↓

pitchfork.com

 

本文はこういった記事に触発されて、音楽をこよなく愛す筆者もHIPHOPに限って2016年にリリースされたものの中から10枚のアルバムを推薦するものである。

 

以下紹介。

御託ばかり並べても仕方がないので、早速10選を紹介していく。これらはランキングをつけて並べているわけではないので注意してほしい。

 

(※表記は全て"アーティスト名 / アルバムタイトル"とする)

 

 

  • Noname / Telefone

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フィメールMCのNonameによるフリーミックステープ形式で発表されたデビュー作。どこかノスタルジックで牧歌的雰囲気のトラックと彼女の無理していないゆったりとしたRAPが相性抜群です。HIPHOPとしてよりむしろオルタナやドリームポップのような趣もあり門外漢の方も聞きやすいのではないかと思うが、歌詞内容はなかなか詩的かつメッセージ性が強いようで実際はHIPHOPとしての芯が強い作品なのかもしれない。彼女の詳しい生い立ちや作品の内容に関しては、渡辺志帆氏が”INSIDE OUT”内で語った様子を文字起こしした記事があったので興味がある方は是非。

またフリー(無料)ミックステープとしてリリースされた作品なのでこちらでまだダウンロードできるようである。ダウンロードの際は自己責任でお願いします。

 

 

www.youtube.com

 

HIPHOP好き、いや音楽好きには説明不要とも言えるATCQの"最後のアルバム"。今年の10選を選ぶ上で一切迷う余地のなかった一枚である。個人的な思いを書かせてもらえば、ATCQの96年リリースされた4枚目のアルバム"Beats, Rhymes and Life"は全てのHIPHOP作品から10枚を選べと言われたときにも選ぶほど好きだ。いまだに聴いているし、おそらく死ぬまで聴くだろう。ATCQについて細かく分析する気はない、とにかく偉大なRAPグループであるから検索すれば五万と記事はヒットするだろう。HIPHOPを聞かない全リスナーにも決してとっつきにくいサウンドではないので、1ミリでも興味があれば聴いてほしい。きっとHIPHOPの魅力にハマる足がかりになる。

この作品自体にもほんの少し触れておこう。98年リリースの"The Love Movement"以降グループの体をうまく保てていなかったATCQだが、この作品は今は亡きファイフも参加しているし、音の鳴り自体は時代の変化でクリアになったものの元の持ち味はしっかり残し、更には今をときめくKendrick LamarやAnderson .Paakをフィーチャーすることによって往年のヘッズと新しいリスナーどちらも満足させる出来と言える。チェックしてないならば即ポチッ!!の一枚である。R.I.P. Phife Dawg

 

↓即ポチッ!!

ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・サンキュー・フォー・ユアー・サービス

ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・サンキュー・フォー・ユアー・サービス

 

 

↓筆者の個人的な思い。 

ビーツ,ライムズ&ライフ

ビーツ,ライムズ&ライフ

 

 

 

  • Chance The Rapper / Coloring Book

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ここ3年ほどの間に才能を爆発させているChance The Rapper待望の作品であった今作は、非常に"高品質"なHIPHOPアルバムと言える。客演も込み込みで作品中いろいろな音楽の方向性にチャレンジし見事に成功しており、全体にキャッチーさを保っているため踊れる内容に仕上がっている。3年前の話題作"Acid Rap"、一昨年Chance The Rapper & The Social Experiment名義で発表された"The Social Experiment"、加えて昨年Donnie Trumpet & The Social Experimentとして発表の"Surf"と彼のキャリアを順を追ってチェックすると、彼のスキルの進化や媚びることなく多くの人々にアプローチできるようになっていく様子がよくわかると思う。また、さすが新時代の申し子ともいうべきか全ての作品を無料公開していることもリスナーとしてはありがたい限りである。上記のタイトル名をクリックすることでダウンロードページにリンクするようにしたので是非。紹介したColoring Bookはこちらから。例のごとく、ダウンロードは自己責任で。

改めて、↑のMusic videoも素晴らしい出来である。

 

 

  • Kamaiyah / A Good Night in the Ghetto

www.youtube.com

オークランド発のフィメールMCのKamaiyahがリリースした本作にはかなり衝撃を受けた。一言で表すと「懐かしい」のである。サウンド・RAP・Music videoなど全てが西海岸でHIPHOPが隆盛を迎えた90年代の匂いを強く放っていて、好き者にはたまらない出来なのである。しかしながら90年代のマネごとにとどまっているのかといえばそういうわけではない。90年代をそのまま現代に持ってきたのではなく、90年代マナーをしっかり踏襲しながら作られた紛れもない新作なのである。ネタ色の強いシンセサウンドにだるそうなフローが乗っかりローライダーの気分をがっつり味わえる温故知新の一枚。彼女の今後のキャリアも注目せざるを得ない。なんと本作も無料公開、素晴らしい時代になったものだ。ダウンロードページへのリンクはこちらから。自己責任!

 

  • Bas / Too High To Riot

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ここから先は筆者の好みを強く反映しているためバランスを欠いた選出となることをご了承いただきたい。レーベルDreamville Recordsに所属するBasはJ.Coleの盟友。であれば新作をリリースしたばかりのJ.Coleを選ぶべきという向きもあるかもしれないが、個人的にこの作品の持つ絶妙なバランスが気に入っている。サウンドプロダクションのダウナーな印象を、フックのキャッチーさや時折見せるBasのメロディアスなフローが持ち上げ適度にドラッギーなのだがギリギリのところでコントロールされているので聴いていて気持ちが塞ぐことはない。それどころか妙に聴き心地が良いのである。既に支持されているJ.Cole(炎上の件はさておき)やいぶし銀のCozzに隠れていた存在のBasがしっかりと才能の価値を示した作品として評価できると思う。露骨にチルアウトやレイドバックを思わせる内容ではないが、ゆったりとくつろぎながら聞いてほしい。

 

 

Too High to Riot

Too High to Riot

 

 

 

 

  • Chuuwee & Trizz / AmeriKKas Most Blunted 2

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サクラメントのMC ChuuweeとTrizzのコラボ企画第二弾。恥ずかしながら筆者のリサーチ力と英語力では彼らの詳しい情報には辿りつけない。だが、Chuuweeに関して言えば何本かミックステープを発表しており、そのプロダクションクレジットがどうにも筆者の好みであったため知っていた。これまでの作品の方向性からこのコラボ企画が始まるまでてっきりデトロイトあたりのMCと思っていた(厳密にはSahtyleをフィーチャーしていることに違和感を抱き調べるまで)。もともとChuuweeの高めで少し粘着質な声がものすごくツボで、Trizzと共作するにあたって、タイトル通り煙モクモクな感じをコンセプトにすることなり、結果としてそれがいい方向に出たように思う。いわゆる"ドープ"な作品なのだが、残念なことにTrizzにはまだイマイチ興味を持てていない。Trizzはソロプロジェクトが進行しているということなのでそちらもチェックしてみたい。

 

 

Amerikka's Most Blunted 2 [輸入盤cd] [bs-020]

Amerikka's Most Blunted 2 [輸入盤cd] [bs-020]

 

 

 

  • Jigmastas / Resurgence

HIPHOP好きは一度は世話になったであろうDJ SPINNAとMC KRIMINULのタッグJigmastasの復活記念の盤。2003年から録り貯めていた未発表曲のコンパイルということなので完全新作というわけではないが、往年のB-boyであればヨダレが垂れるようなドラムブレイクの質感や独特の浮遊感のあるプロダクションは「さすがSPINNA氏」と脱帽せざるをえない。年内に完全新作の"Stellar"をリリースする予定と耳にしたのは本年の上半期、その後続報がないので期待の意味も込めて選出した。ビルボードチャートにランクインするものしか聞かない方も、Music videoすらないアングラメイドの作品にドップリと浸かってみてはいかがだろうか。

 

 

Resurgence

Resurgence

 

 

 

 

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変態Tyler the Creator率いるOFWGKTAのDomo Genesisのスタジオアルバムとしては初のリリースとなる本作。OFWGKTAはアパレル展開しているため、HIPHOPを聴かなくともストリートファッションに興味がある人であれば知っている人も多いのではないか。他メンバーであるがEarl Sweatshirtの13年リリースの"Doris"のおどろおどろしい作風は筆者のお気に入りだ。そんな才能あふれるアーティスト集団OFWGKTAファミリーのDomo Genesisの本作は先にリリースされたTRAPテイストの強かった"No Idols"(これはこれで傑作だった)とガラリと雰囲気を変えている。ダンサブルでキャッチーでバランスが取れているということで、先に選出したChance The Rapperとどちらかを選出外にすることも考えたが、内容は当然違うし「良いものは良い」ということで選出した。共通して言えることはどちらも開けた作風なので多くのリスナーにとって親しみやすいということである。

 

Genesis

Genesis

 

 

↓ OFWGKTAクルーの中でもお気に入りの一枚

Doris

Doris

 

 

 

  • Nolan the Ninja / He(art)

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「軟弱なRAPばかりじゃないか」という声が上がらないようにゴリゴリの男気溢れる一枚もセレクトしようということでデトロイトのホープNolan the Ninjaを選んだ。本作は客演クレジットからもわかるように新旧のデトロイトMC陣が名を連ねる盤石ぶり。J Dillaという天才の存在は例外として、8mileの舞台であることから連想できる通り工業都市デトロイトのスタイルはとにかくハード。音鳴りが太いミニマルループのトラックには、パンチの効いた迫力のあるフローがよく合う。例に漏れず、Nolan the NinjaのRAPは破壊力満点で、聴けばフードをまぶかに被りただただ首を振りたくなるような出来栄えだ。HIPHOPを普段聴かない人にとっては敷居が高く、ノイジーに感じるかもしれないがオーセンティックなHIPHOPであることは間違いないので一度はチャレンジしていただきたい。残念なことにCDでのリリースはなく、カセットかアナログ12inchもしくはBandcampかリージョンUSのiTunes storeでの入手となるので面倒ではあるが興味がある方はチェックして損はないだろう。

 

He(Art)

He(Art)

  • Nolan The Ninja
  • Hip-Hop/Rap
  • USD 9.99

 

↓こちらはアナログ

He [12 inch Analog]

He [12 inch Analog]

 

 

 

  • Christmaz & Figub Brazlevic / Ego & Soul

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最後は大穴中の大穴。スウェーデンストックホルムのMC ChristmazがドイツはベルリンのビートメーカーFigub Brazlevicとタッグを組んで作り上げた一枚。世界は広いと言うより他ない。USシーンと離れたところで作られたこともあってかFigub Brazlevicのサウンドは新しいのか古いのかよく分からない、しかしながらそれがかえってフレッシュな印象を放ち不思議な中毒性を持つ。対するChristmazのRAPも独特の訛りの強い英語が面白く、しかしながらHIPHOPとしての芯が太い。二者の才能がうまく組み合わさり、オリジナリティの高い作品となっている。個人的には最初聴いたときの衝撃はアングラシーンの人気ユニットThe Doppelgangazを聴いたときに受けたものに近いが、それにさらにイビツさを加えた印象と言ったほうが正確か。いずれにせよ、先月末にリリースされたばかりの本作は年の最後を飾るにふさわしい衝撃を与えてくれた。こちらも現時点ではiTunesでの購入になるが、要チェックである。

 

Ego & Soul

Ego & Soul

  • Christmaz & Figub Brazlevic
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1500

 

最後に。

本年も数多くリリースされたHIPHOP ALBUMの中から10枚を選ぶ中で、「メインストリームのものばかりでもいけないしアンダーグラウンドなものばかりでもいけない」と筆者なりにバランスは考えたつもりだ。Kanye WestHIPHOPに興味があればほっておいてもチェックするだろうし、Pusha TにJ.Cole、Danny BrownやVince Staplesなど他にも選ぶべき作品が山ほどあることは承知しているが個人の思いを優先させていただいた。いかがだっただろうか、最後まで読んでいただいたすべての読者に多大なる感謝を。

HIPHOP ALBUM(国内編)やR&B ALBUMなども10枚選定しようかとも考えたが、労力が大きすぎたので気が向けば後日更新しよう。