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EYE KNOW

福岡在住B-BOYの音楽・映画・スポーツに関心を寄せて過ごす日々の観察記録

日本のMC BATTLEの限界

音楽 HIPHOP RAP ラップ ヒップホップ MCバトル 日本語ラップ フリースタイルダンジョン

今年の漢字

 今年の漢字が発表された。「金」ということだ。オリンピックの金メダルから連想されたようだが、腑に落ちる人は少ないのではないか。「金」では弱い。

 

自然災害、芸能ゴシップ、アメリカ大統領選、大ヒットしている邦画や東京都の腐敗など、ザッと思いつくだけでも年を飾る要素として不足ないほど印象の強いトピックがずらりと並ぶ。話題に事欠かない一年だった。

 

しかしながら話題性の高さにおいて、他に類を見ない一年だったので逆に漢字一字で締めくくることは難しかったのかもしれない。皆さんも関心の高い事柄が少なからずあったのではないか。

 

筆者自身もいろいろな時事に関心をもった一年であったが、B-BOYとしてはやはりテレビ番組「フリースタイルダンジョン」の人気には注目をせざるをえない。この一年で、MC BATTLEの社会的な認知度や関心を爆発的に上げたコンテンツと言えるだろう。

 

以下少し昔話。

 現在B-BOYを自称する筆者(アラサー)が初めてMC BATTLEというものに出会ったのは2002年公開の映画"8mile"であるが、当時はHIPHOPそのものに没頭していなかったのもあってか「こんなものもあるのか」程度の印象だった。しっかりとした魅力あるコンテンツとして認知したのは2006年のUMBという国内MC BATTLEの大会だったのを覚えている。

 

国内でもMC BATTLEの歴史を遡れば当然B-BOY PARKなど他にもあるだろうが、あくまでの筆者との出会いは2006年のUMB。現在もバリバリ活動中のRAPPER、HIDADDY(韻踏合組合)とFORK(ICEBAHN)が一回戦からぶつかり、今でもベストバウトに数える人がいてもおかしくない好カードは、RAPの魅力にハマりつつあった筆者をひきこむには十分すぎた。

 

今振り返っても、友達から借りたDVDで出会ったMC BATTLEは、2006年時点で相当に成熟していたように思う。前に上げた二者はともに音数のある韻を確実に踏むハードライマーであったし、GOCCI(LUNCH TIME SPEAX)やFEIDA-WANはタフな気持ちが前面に出た熱量の高いRAPPER、ポエトリーリーディング調の25時の影絵、のちにマルチな才能を爆発させるPUNPEEはコミカルなRAPをしっかり決めていた。

 

ここで全ては紹介しないが、RAPスタイルがそれぞれにあり、ただ単に「どちらがRAP口喧嘩が強いか」ではなく「どちらが格好良く対戦相手を翻弄するか」というエンターテイメントが成立していたのは間違いない。

 

UMBの認知度は、当時高校そこらの筆者の体感では「B-BOYであれば知っている」程度なものだった。筆者にDVDを貸してくれた友人はスケーターで周りにB-BOYがたくさんいたし、UMBを知っていた人物のほとんどは服屋の店員、クラブ遊び仲間や先輩など、ストリートコミュニティが認知のきっかけを与えていた。

 

そんなUMB自体も徐々に認知度を上げていき、千原ジュニアが何かの番組で紹介したり、サブカルの入り口ヴィレッジバンガードでDVDが展開されることによりB-BOY以外の好き者層も取り込んでいった。

 

 

 

ULTIMATE MC BATTLE GRAND CHAMPION SHIP 2006 CLUB CITTA [DVD]

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以下現在の話に戻る。

 この一年のフリースタイルダンジョンの成功の前に、シーンに既にそういった機運が高まっていたことにも触れなければならない。1つは、MC BATTLEが若年層とサブカル層をまとめて獲得することに成功していたこと。

 

BSスカパー!の人気番組BAZOOKA!!!の番組内企画「高校生RAP選手権」は出場できるのが高校生世代のRAPPERのみという言わばRAPの甲子園的なMC BATTLEの大会。これが爆発的にウケた。

 

もともとBZOOKA!!!という番組自体サブカルチャーアウトサイダー的なトピックを扱う番組だったこともありサブカル層の口コミを呼んだ。出場するのが高校生世代であるならば、当然大会も白昼開催。高校生の観客が多い。口コミの広がるスピードはSNSの登場、スマホの普及によりここ10年で飛躍的に高まった。これによって「今までHIPHOPに触れてこなかったがMC BATTLEにハマった」という人が加速度的に増えたと言える。

 

フリースタイルダンジョン成功の素地はまだある。MC BATTLEシーンが決して衰退せずむしろ着々と地下活動していたこともその1つと言える。若かりし頃の筆者を魅了したUMBは、主催団体の不幸なドタバタに遭遇しながらも現在も存続しているが以前ほど注目度は高くない。しかしながら、戦極MC BATTLEや罵倒など他のMC BATTLEの大会が着実に認知度を高め、規模を少しずつ大きくし今や全盛期のUMBにも劣らない人気を誇る。

MC BATTLEの成長には当然、出場するRAPPERのスキルの向上が必要であって、そういう意味でこのようなMC BATTLE開催団体の健闘が多くの実力のあるMC BATTLE RAPPERを生んだと言えるし、常にあらゆるところでMC BATTLEの大会が行なわれている状態こそがここ10年で広まったTRAPやGRIMEなどにも適応するフローをシーンにいるRAPPERに要求した。

 

このように単純にフリースタイルダンジョンがテレビ番組として人気が出たことはある種必然とも言える要素がシーンには備わっていた。

 

ここから本題。

 さて、前置きがクソがつくほど長くなってしまったが、筆者がこの知ったかぶりも甚だしい駄文で何が言いたいかといえば、「MC BATTLEよどこに向かっているのか?」ということである。

フリースタイルダンジョンの人気により(時として自主規制”通称:コンプラ”だらけで意味不明なカードもあるが)MC BATTLEはコンテンツとしてテレビで通用することが証明された。今後さらなる成長が”ショウビズ”として期待出来る。

 

ん。それでいいのだろうか。

 

無論、音楽シーンというものは誰かがディレクションするものではなく、シーンの参加者が自分の思うままに好き勝手にプレイした結果醸成されていくものであるし、その方が健全であるとは思うが、MC BATTLEがショウビズとして一人歩きしていくことは日本のHIPHOPそのものにとっては毒なのではないかと不安になる。

 

先日M-1グランプリという周知の漫才No.1を決める国民的ショーレースがあった。個人的には出場コンビ全て面白くて感心した。やはり日々劇場や営業先などで漫才に研鑽を積む芸人たちの晴れの舞台、目指すべき場所だけあって芸の輝きも一際だ。

ところで、漫才をする芸人にとってM-1の優勝は悲願だろうが、ゴールではない。そこから、ありとあらゆる仕事にチャンスが派生するきっかけでもあるだろうし、M-1で優勝を目指す動機の本分がそこにある芸人も少なくないだろう。

 

ではHIPHOPに置き換えたらどうだろうか。

このままMC BATTLEがコンテンツとして評価され、テレビ番組の特番として日本一のMCを決める大会がゴールデンタイムに放送されたとしよう。賞金は1000万。この大会にRAPPERが出場する目的は何か。日本一MC BATTLEで強いMCという名誉か賞金1000万か、はたまた優勝をきっかけにメディアに引っ張りだこの人気者になることか。いずれにせよB-BOYの一人として筆者は不健全に思う。

 

日本一MC BATTLEで強いMCというのであれば、既に違う形でKING OF KINGSという大会が存在しているし、社会的人気や1000万が欲しいというのであればミュージシャンならば自分の作品で掴みとるべきだ。なにも音楽だけで1000万稼げというわけではない、作品を評価され支持されれば必然的に他の収入源も獲得できるはずだ。

 

誤解を恐れて保険をかけておく。筆者はMC BATTLEそのものの否定は一切しない。自身もMC BATTLEに魅了された一人であるし、作品の制作費を稼ぎたいRAPPERにとっては必要なチャンスだ。しかしながら、これ以上MC BATTLEシーンのみが肥大化していくとHIPHOPシーンから隔絶され、職業:RAPPERではなく職業:BATTLE MCという者を生むことになる。まるでダンスのHIPHOPが体育の授業に盛り込まれるが如く本末転倒な事態を生むことを危惧しているのである。

 

よくMC BATTLEの対戦相手を罵しる「盤(作品)作ったこともないくせに」であるとか「BATTLEだけでライブはクソ」のようなフレーズを耳にするが、「だからなんだ」と開き直る者が現れたら終いだ。MC BATTLEが全大衆向けコンテンツに変化していく過程でB-BOYにしかわからない表現やワードプレイで観衆を沸かせる"HIPHOP IQ"の高い戦いは失われていき、より聞く者にとって分かりやすいキャッチーな内容が増えていくだろう。なぜなら、聞き手が変わるならば戦い方も変えなければ勝負に勝てなくなるからだ。HIPHOPの持つリアリティそのものが変化しているという解釈をする人もいるだろうが、筆者は賛同しない。そんな迎合は断じてHIPHOPではない。

 

最後に。

 フリースタイルダンジョンという番組に賛否があるのかといえば筆者にはない。テロップを入れて、コンプラだらけで、観衆ゲストに芸能人がいて、どれもテレビ番組で戦うには必要な要素なのだろう。観てみると実際に面白いカードもある。審査員が一応の事情通であることもバランスを取ろうと工夫した結果だろう。

 

ただこの一年で、作品で名を売っていないRAPPERをバラエティ番組でちらほら見かけたり、UZIQさまに出演していたり(これはこれで問題無い)、違和感を覚える機会がぐっと増したことは言うまでもない。

 

本文はMC BATTLEシーンの行く末を案じるものであって、だれが犯人であるなどと糾弾するものでは無い(強いて犯人を挙げるとすればYoutubeか)。しかし、MC BATTLEとHIPHOPそのものの隔絶を止める手段は何か無いものか。シーンは今後も目が離せない。

 

 

 

※敬称は全て割愛していますが、本文中に登場する全ての人物に敬意を表します。

 

本文作成中に聴いた一枚

 

Dave East / Kairi Chanel (Rap)

 

カイリ・シャネル

カイリ・シャネル

 
Kairi Channel

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